職人の仕事場を訪ねる旅

A journey to meet craftsmen

  • JUNE 27, 2017
  • INTERVIEW
  • すだれ職人 川崎 音次

モノづくりの結び手「近藤芳彦」が導く未来を創る職人との出会い、そして価値ある体験への誘い

近藤芳彦が、自身選りすぐりの職人5名を訪れ、対談をしながら「お客さんに喜ばれる体験」について考えるシリーズ。多くのお客さんと職人の橋渡しをしてきた近藤と、伝統技術を継承しながら未来を切り拓く彼らが考える「業界事情」「今後残したいもの」「発展させたいもの」とは?

すだれ職人川崎 音次さんOtoji Kawasaki

〈写真右〉1947年、京都府舞鶴市生まれ。中学を卒業し、15歳で京都市内の老舗すだれ店に丁稚奉公。11年間修行を積んだ後、1972年、26歳で独立。京都市右京区嵯峨野に店をかまえる。17年間営業。1989年、事業が拡大し、店が手狭になったことから、亀山市(現所在地)に移転。幹線道路沿いにログハウスの新店舗兼事務所をオープンする。京都縦貫道にも近く、遠方からも多くのユーザーが店を訪ねる。2001年、「京都デザイン賞」などを受賞。

株式会社京都結 代表取締役近藤 芳彦さんYoshihiko Kondo

〈写真左〉1972年、京都生まれ。八坂神社・北野天満宮狛犬の銅像製作などを行った彫刻家の石本暁海を曾祖父、官僚を経て寺院の住職となった祖父、表具師として掛け軸や屏風などの仕立てを行った父を持ち、2006年、個人・法人を対象に京都旅行を企画するトラベル京都を設立。2016年、観光イベント・ツアーの企画・開発及び京都府内の観光コンテンツ企画・開発、デザイン制作、コンシェルジュ業務、コーディネート業務を行う株式会社京都結を設立。府の職員として長期間地域に定着する非常勤職員として和束町でも活躍。

間仕切りや日よけとして、長く愛されてきたすだれ。その独特の風雅な味わいから、最近は海外での人気も高まっています。川崎音次さんは、高級品として知られる京すだれを昔ながらの手編みでつくる数少ない職人の一人。15歳でこの道に入って45年、ひたすら手編みの京すだれづくりに取り組んできました。そんな川崎氏に、すだれ作りに賭ける思いとこだわりについて、話をうかがいました。

日本の夏を優雅に彩る京すだれ。
「手編み」にこだわり続けた45年。オーダーは、世界中から届きます。

近藤すだれといえば日本の夏の風物詩ですが、最近は海外でも人気が高いとうかがいました。

川崎数年前からインターネットを使って販売を始めたんですが、その頃から海外からの注文や問い合わせが増え、今では外国のお客様にも数多く商品をお届けしています。つい最近もイタリアのデザイナーから、住宅の室内装飾用のカーテンとしてすだれを使いたいからサンプルを送ってほしいという問い合わせがあり、長さが10mもある特別仕立てのすだれを出荷したばかりです。

近藤はるばるイタリアからオーダーがあるとは驚きました。

川崎デンマークからは、建築デザイン学校の生徒さんたちも、すだれ作りを学びにやってこられたこともあります。編み方や仕上げに特別興味をひかれた様子で、熱心に私の話を聞いてくれていました。もっとも、「ここはもっと、こうすべきじゃないか」と、いろいろと注文もつけられましたが(笑)。また中国や韓国など、アジアの方々がすだれ作りを体験しにこられたこともあります。

近藤外国人がすだれに魅力を感じる理由は、どこにあるんでしょう?

川崎すだれの材料になるヨシは、本来であれば捨ててしまうものです。でも日本人は、それを巧みに日常生活の中に取り込んで利用してきました。そんな自然を大切にする考え方や技術、価値観に、多くの外国人は共感するのではないでしょうか。

近藤すだれといっても、多種多様なモノづくりをされておられます。

川崎家の軒先に吊る「軒吊用すだれ」や、俗に「御簾(みす)」とよばれる「お座敷すだれ」などの一般的なすだれから、カラフルな色で染めあげた竹ひごを材料に使った「彩すだれ」、自然の素材の良さを生かした「オーガニックすだれ」まで、さまざまなすだれをつくっています。またすだれの手編み技術を生かして、コースターやマット、タペストリーなど生活グッズも幅広く商品展開し、ネットでお客様に直接販売しています。今後は、部屋のアクセサリとして使える商品のラインナップを、さらに広げていきたいと思っています。

▲刈り取ったヨシは、いったん倉庫に寝かし、頃合いの色や硬さになるまで熟成させる。倉庫には、10年位以上にわたって寝かし続けるヨシもある。

品質を決める材料選び。
手編みだからつくれる風合い。一本一本指先に心を込めて。

近藤モノづくりでこだわっておられるのは、どういう点ですか?

川崎いちばんは材料です。すだれの主な材料になるヨシは、川や湖の水辺にいけば、いたるところに群生していますが「京すだれ」の材料として使える上質のヨシは年々収穫量が減り、手に入る量は限られています。良いものがあれば、どこへでも買い付けに出かけるというのが基本スタンスです。

近藤国内産が中心ですか?

川崎以前は買い付けのために、中国の天津や山東、ハルピンまで出かけていましたが、工業化が進んだことや環境汚染の広がりなどが原因で品質が落ちたことや、国産材料の需要を2年ほど前からは国内産に切り替えました。今は滋賀県の琵琶湖と栃木県の渡瀬遊水池、青森県の十三湖という3つの産地で採れるヨシを主に使っています。柔らかで、シミや汚れのない上質のヨシは、キレイな水と空気がないと採れません。3つの産地は、気候的にも、環境的にも、上質のヨシが育つ条件がすべて備わっているんです。

近藤倉庫に行くと材料のヨシが、ところ狭しと山積みにされていました。

川崎産地に出かけ、品質の良いヨシを見つけると、売れるかどうかにかかわらず、つい買ってしまいたくなるんです(笑)。そうやってコツコツ集めた材料が倉庫にあふれ、今では足の踏み場もないほどです。でも時間をかけただけあって、中には10年間ずっと寝かし続けてきたものや、簡単には手に入らないめずらしい材料も数多くあって、1年に1度あるかないかというオーダーも含めて、どんなご要望にも対応が可能です。

近藤それほどまでして材料にこだわる理由は、なんですか?

川崎京のすだれは、万葉集に記載があるほど長い歴史を持っています。そんな京すだれの伝統を守り、次の世代へと伝えていきたいという思いが私の中にあります。良い材料がないと京すだれはつくれませんし、つくれなくなったら文化の継承はそこでストップしてしまいます。「使命感」というと大げさかもしれませんが、日本の代表的な伝統工芸品であるすだれを、後世まで語り継ぎたいという思いがあるのは事実です。

近藤手編みと機械編みの違いは、どこにあるのでしょう?

川崎手編みのすだれは、木綿の糸を巻きとった「槌の干」を勢いよく跳ね上げるようにして編んでいきます。この時重たい槌の干に引っ張られて木綿糸が伸び、材料のヨシをギュッと堅く縛りあげます。だから糸のたるみもない。これが機械編みだと、単純に糸を交互にねじって編み上げるだけなので、長い間吊っている間に糸がたるんで伸びてきます。手編みでは、絶対にそういうことがありません。

近藤手編みで難しいのは、どういうところですか?。

川崎一本一本違うヨシの太さやゆがみを指先だけで見極め、編み終わった時にヨシが真っ直ぐになるように節を調節し、折れない程度の強さと均等な力加減でバランスよく編み上げられるようになるまでには、やはり経験が必要です。経験の浅い人が編むと、出来上がりが歪んでしまって、風情を台無しにしてしまいます。また柄ものの場合、ヨシの微妙な色合いの違いを見極め、どこにどのヨシをどう配置したらいいかを瞬間的に判断しながら編んでいかないといけません。一見簡単そうに見えて、実は熟練の技術を必要とされるのがすだれ作りです。

▲ やさしく編んでは、型崩れする。かといって強く力を入れ過ぎると、弱いヨシはすぐに折れる。コツを身に付けるまでに長い時間を要する手編み仕事だ。

失ってはならない伝統工芸技術。
自ら仕事を熱く語ることで、技術を未来へ残したい。

近藤川崎さんのように、昔ながらの手編みですだれ作りをしている人は、今どれくらいおられるのですか?

川崎おそらく、私も含めて5人くらいでしょう。年齢的に限界を感じ、やめていかれる方も多くおられます。代わりに機械編みがどんどん増えていますが、手編みには手編みでしか出せない良さがあり、趣があります。

近藤手編みは、これからも残していかないといけない技術ですね。

川崎機械化の流れを止めることはできませんが、例えば文化財の修復では、劣化した材料を破損してしまう恐れのあるので機械編みでは修復ができません。文化遺産の継承という点からも、すだれの手編み技術は残していくべき技術です。

近藤すだれの技術を次の世代に残していくために、これから必要なことはなんだと思われますか?

川崎より多くの人にすだれの伝統工芸品の価値というものをあらためて理解してもらうことが重要だと思います。そのために、これからは京すだれの良さを、外国の方も含めて、もっと多くの人に伝える努力をしていきたいと思っています。今までのように「待ちの姿勢」ではなく、すだれの持つ魅力、素晴らしさというものを、自分自身の言葉で熱く語れるくらいになりたいですね。

近藤それは大事な視点ではないでしょうか。これからは熟練の技術を持つ職人さんも、モノづくりだけでなく、どんどん人前に出て情報発信していく時代だと思います。

川崎今までは、モノづくりをしている時間が楽しくて、情報発信や情報収集は、人任せにしていました。海外で展示会やセミナーがあっても、仕事を手伝ってくれている子どもたちに行ってもらっていました。でも内に閉じこもってばかりでは、新しいものを生み出すこともできません。外に出て、最新の情報に接したり、人と出会う中で学ぶべきことは多いと思っています。

近藤私の仕事は、「旅」という切り口で世界中の人びとと川崎さんたち日本の職人さんたちとをつなぐこと。そこに広がる世界や技術については、やはりご本人でなければ多くを語ることはできません。一緒に力をあわせることで、より大きな成果につなげられるはずです。

川崎世界中の人にすだれを知ってもらうために、これからは外国語も勉強しないとダメですね(笑)。

▲ ヨシの皮は、まず機械で剥いて、すだれ作りに必要なところは手作業で剥いていく。単純作業だが、熟練を要する。
▲ 縫い上がると、寸法の長さに合わせて両サイドをカット。吊用の金具や額を装着すれば出来上がり。製品は、海外にも出荷される。

伝統技法で本格的なすだれ作り。
新しい体験プログラムにも挑戦。すだれの魅力を世界に発信。

近藤川崎さんには、弊社の「生産地や伝統工芸を守り・生かす旅」の企画にもご協力いただき、先日もプロモーションを兼ねてタイに視察のためにご一緒しました。今後のことで、ご要望とか、お考えのことがありましたら、最後にぜひお聞かせください。

川崎例えば、わずか数時間の体験だけでは満足できないという方に、神社や仏閣などの格式の高い場で使われるすだれ(御簾)を、昔ながらの方法でつくってみるという体験プログラムなどつくれば、面白いんじゃないですか。1日がかりになりますが、内容的には充実したものにできるはずです。

近藤面白そうですね。特に外国人の観光客には、喜んでもらえるかもしれません。実は先日、日本の伝統工芸の世界に魅了され、その技術を内外装の装飾や仕上げに生かした世界に数台しかないクルマを作りたいという夢を持たれている方とお会いして、お話ししたんですが、すだれの技術もほかの伝統工芸技術とコラボすることで、何か新しいものを生み出せるかもしれません。

近藤多くの外国人をこれだけ引きつけてやまないすだれには、まだまだ未開拓の可能性が秘められていると思います。それを一緒に切り開いていきましょう。今日はどうも、ありがとうございました。

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